退職金2,000万円が老後資産の中心なら、1,500万円をポルシェに使うのはかなり慎重に判断したい支出です。ただし、別の金融資産や十分な年金収入があれば、一律に危険とは言えません。
実際に60歳の男性が、長年憧れたポルシェへ退職金の75%を使おうとして妻に反対された事例があります。大切なのは「買えるか」ではなく、買ったあとに夫婦のお金が何年持つかを数字で確認することなのですね。
退職金2,000万円で1,500万円のポルシェを買おうとして何があった?
結論からいうと、60歳で定年退職した男性が退職金2,000万円のうち1,500万円でポルシェを買おうとしましたが、58歳の妻が反対し、最終的には軽ハイトワゴンを購入しました。
元になったのは、資産形成ゴールドオンラインが2025年12月23日に掲載した、山下隆志さん(60歳・仮名)夫妻の事例です。ゴールドオンライン
山下さんは都内のメーカーで営業部長を務め、定年を迎えたばかりでした。
若い頃はスーパーカーブームの真っただ中。学生時代から「いつか成功したらポルシェのオーナーになりたい」と憧れを抱いていたと紹介されています。ゴールドオンライン
ところが、結婚してからの車選びは家族優先でした。
結婚後は燃費のよいコンパクトカー、子どもが生まれてからはスライドドア付きのミニバンを選択。自分の趣味より、家族の使いやすさを優先してきたのです。ゴールドオンライン
子どもが独立し、60歳で定年。
「今度こそ本当に乗りたい車に乗りたい」と考える気持ちは、車好きなら理解できますよね。
山下さんが選ぼうとしたのは、約1,500万円の真っ赤な2シーターのポルシェでした。退職金は2,000万円ですから、退職金の75%を1台の車に投入する計算です。
しかし、妻の恵子さん(58歳・仮名)の考えは違いました。
築30年の自宅もあり、これから先の暮らしを考えれば、退職金は夫の夢だけに使えるお金ではありません。
夫にとって1,500万円は「何十年も我慢してきた夢をかなえるお金」。
妻にとっては「これからの夫婦の生活を守るお金」。
同じ1,500万円を見ていても、そのお金に付けている名前が違っていたのですね。
元記事では夫婦のやり取りの末、現在のガレージには妻の希望に沿った、安全装備付きのクリーム色の軽ハイトワゴンが納車されたとされています。山下さん自身も便利さは認めながら、憧れを諦めた複雑な気持ちを漏らしています。ゴールドオンライン
ここまで確認すると、この事例は単純な「高級車を買おうとして妻に怒られた話」ではありません。
老後のお金を守ることと、元気なうちに人生の夢をかなえることをどう両立するかという、60代ならではの問題なのだと私は感じます。
退職金2,000万円のうち1,500万円を使うとなぜリスクが高い?
退職金2,000万円から1,500万円を使えば、残る退職金は500万円です。
だからといって、500万円しか老後資金が残らないとは限りません。
預貯金や投資資産が別に3,000万円ある人もいれば、企業年金が充実している人もいます。反対に、退職金2,000万円がほぼすべての老後資金という家庭もあるでしょう。
つまり、
1,500万円の車が高いかどうかではなく、購入後に残る金融資産がいくらなのか
を見る必要があります。
ここで参考になるのが、総務省の2025年「家計調査」です。
65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、1か月の実収入は25万4,395円、消費支出は26万3,979円、税金や社会保険料などの非消費支出は3万2,850円でした。
可処分所得から消費支出を差し引いた不足額は、月4万2,434円です。総務省統計局
年間では約50万9,000円になります。
もちろん、これは全国平均です。
「すべての夫婦が毎年約51万円不足する」という意味ではありません。年金額、住居費、働き方、生活水準によって大きく変わります。
ただ、この平均値を使って今回の事例をあえて単純化してみると、退職後のお金の見え方が変わってきます。
購入後500万円しか残らない場合
退職金2,000万円が老後資産のほぼすべてで、1,500万円を車に使ったと仮定します。
残る金融資産は500万円です。
年間の生活費不足を約51万円とすると、
500万円 ÷ 約51万円=約9.8年
です。
これは物価上昇も、住宅修繕も、医療や介護の突発的な支出も、ポルシェの維持費も考えていない単純計算です。
しかも山下さん夫妻の住宅は築30年です。
給湯器やエアコンだけなら比較的小さな支出で済むこともありますが、外壁、屋根、水回りなどが重なればまとまった資金が必要になる可能性があります。
そう考えると、退職金以外の資産がほとんどない状態で1,500万円を使うなら、私はかなり慎重になるべきケースだと考えます。
別に3,000万円の金融資産がある場合
では、退職金とは別に預貯金や投資資産が3,000万円ある場合はどうでしょうか。
退職金2,000万円+別資産3,000万円で、金融資産は合計5,000万円。
そこから1,500万円を使っても3,500万円残ります。
同じ年間約51万円の不足だけで単純計算すれば、
3,500万円 ÷ 約51万円=約68.6年
となります。
もちろん現実の家計はこんなに単純ではありません。
車の維持費、旅行、リフォーム、医療・介護、インフレ、資産運用による増減などがあるからです。
それでも、同じ「退職金2,000万円で1,500万円の車を買う」という行動でも、
購入後500万円しか残らない人と、3,500万円残る人では意味がまったく違う
ことがお分かりいただけると思います。
これが、「退職金の何%までなら車に使ってよい」と単純に決められない理由です。
ポルシェは購入価格1,500万円だけで判断してはいけない
もう一つ忘れてはいけないのが、車は購入したら終わりではないことです。
車両価格1,500万円は、スタート地点の支出なのですね。
ソニー損保が2025年7月に実施した「全国カーライフ実態調査」では、自家用車を所有し月1回以上運転する18~59歳の男女1,000人の車の維持費は、月平均1万4,100円でした。
2024年の1万3,900円から200円上がり、5年連続で増加しています。
負担に感じる費用としては、ガソリン代・燃料代66.0%、自動車税62.8%、車検・点検費58.4%、自動車保険料49.2%という結果でした。ソニー損保
ただし、この平均をそのままポルシェに当てはめてはいけません。
この調査の「維持費」には税金、ローン返済、有料道路通行料が含まれておらず、軽自動車からSUVまで幅広い車を含んだ平均だからです。ソニー損保
さらに高価格帯の輸入スポーツカーでは、タイヤ、整備、消耗品、任意保険なども車種や使い方によって大きく変わります。
そのため、「ポルシェなら年間○万円」と根拠なく決め打ちするのは避けたほうがよいでしょう。
そこで購入前には、販売店や保険会社から実際の見積もりを取り、
- 任意保険
- 自動車税・重量税
- 車検・点検
- タイヤなどの消耗品
- 燃料費
- 駐車場代
- 想定外の修理に備える資金
まで含めて確認するのがおすすめです。
たとえば実際の見積もりを取った結果、「車関連に年間100万円程度を確保しておきたい」と自分で判断したなら、5年間では500万円です。
これはポルシェの維持費が年間100万円という意味ではありません。資金計画を作るときの仮置きの例です。
購入代金1,500万円に、5年間で自分が見積もった維持費を加える。
そして5年後に売却するなら、売却代金を差し引く。
こうして初めて、「5年間この車を楽しむための実質的な家計負担」が見えてきます。
ここが、私は高級車購入ではとても大切だと思っています。
1,500万円を払える人はいても、毎年の維持費を支払うたびに不安になるようでは、憧れの車を心から楽しめません。
高級車を買える家計と、高級車を楽しみ続けられる家計は同じではないのですね。
退職金で高級車を買ってよい?確認したい5つの判断基準
では、退職金でポルシェなどの高級車を買うとき、何を確認すればよいのでしょうか。
私は「退職金の30%まで」など割合で線を引くより、次の5つを順番に見るほうが現実的だと考えています。
- 購入後に金融資産がいくら残るか
- 年金収入と毎月の生活費の差はいくらか
- 住宅修繕・医療・介護などの資金を別に確保できるか
- 購入後5年間程度の車関連費を無理なく払えるか
- 夫婦で老後資金の使い方に納得できているか
特に重要なのが、一つ目と二つ目です。
「退職金が2,000万円ある」ではなく、
車を買ったあとにいくら残り、毎年いくら取り崩すのか
を確認します。
簡易的には、
購入後の金融資産 ÷ 年間の資産取り崩し額=資産寿命の目安
として考えることができます。
たとえば2,000万円残り、年金収入だけでは年間100万円不足するなら、単純計算では20年です。
3,000万円残り、年間50万円の不足なら60年です。
一方、500万円残って年間100万円不足するなら5年しかありません。
現実には運用益、インフレ、臨時支出などがあるため、この数字だけで老後資金の安全性は判断できません。
しかし「退職金の75%を使う」という割合だけを見るより、はるかに具体的です。
60歳で購入するなら、85歳まで25年、90歳まで30年あります。
自分が何歳まで生きるかは誰にも分かりませんからこそ、「少なくともこの程度の期間は家計が持つ」という見通しを持ってから趣味のお金を決めたいところです。
そして夫婦なら、数字を二人で見ることも大切です。
「ポルシェなんて無駄」
「何十年も働いたんだから好きに使わせてくれ」
このままでは、お互いの価値観をぶつけるだけになってしまいますよね。
しかし、
「車を買ったら金融資産はいくら残る?」
「年金だけでは毎月いくら不足する?」
「築30年の家の修繕費は別に残しておこうか」
と数字に置き換えると、夫婦げんかが家計会議へ変わっていきます。
山下さん夫妻の事例で本当に考えたいのも、ポルシェが正解か軽ハイトワゴンが正解かではありません。
夫は夢を失いたくない。妻は老後の安心を失いたくない。
その二つを同じテーブルに載せることなのだと思います。
ポルシェを諦めるしかない?新車かゼロかの二択にしない
ここで私が車好きの方にお伝えしたいのは、1,500万円の新車を買えないからといって、夢そのものまで諦める必要はないということです。
高級車購入には「買う」「買わない」の間があります。
たとえば中古車を含めて探す。
希望するグレードやオプションを見直す。
退職直後には買わず、1~2年暮らして年金生活の収支が見えてから決める。
そして私が特に検討してほしいのが、所有期間を先に決める方法です。
「最後の車だから一生乗る」と考えると、購入判断が極端になりがちです。
しかし60歳で購入して3年、あるいは5年間だけ楽しむと決め、その後は扱いやすい車へ乗り換える方法もあります。
スポーツカーは乗り降りするときに腰を低くする車も多く、年齢を重ねるにつれて身体的な負担を感じる可能性があります。
70代になれば、安全装備や乗り降りのしやすさ、取り回しのよさを今以上に重視するかもしれません。
だからこそ、
「人生最後の一台」ではなく「元気な60代を楽しむ5年間の一台」
と考えるのです。
購入時には同時に、
「5年後に家計がこの状態なら乗り換える」
「年間維持費がこの額を超えたら見直す」
「運転に不安を感じ始めたら次の車へ移る」
といった出口も決めておくと、夢と老後資金を両立しやすくなります。
中古車価格や将来の売却価格は市場環境、車種、年式、走行距離などで変わります。
ですから、「将来必ず高く売れるから大丈夫」と考えて購入予算を広げるのはおすすめできません。
売却額はあくまで不確定要素。
売れなくても老後生活が破綻しない予算で買うのが基本だと私は考えています。
私なら退職金を3つに分けてからポルシェの予算を決める
ここからは私自身の考えです。
私なら、退職金が振り込まれても最初に「何の車を買おうか」は考えません。
先にお金を三つに分けます。
一つ目は、生活を守るお金です。
公的年金などの収入で足りない生活費を補うためのお金ですね。
二つ目は、将来の大きな支出へ備えるお金。
住宅修繕、医療、介護、家電の買い替えなどに備えます。
そして三つ目が、人生を楽しむお金です。
旅行や趣味、そしてポルシェなど憧れの車はここから出します。
順番が大切です。
「ポルシェを買って残ったお金で老後を暮らす」のではなく、「老後を守るお金を確保して残った範囲でポルシェを買う」のです。
退職金2,000万円という残高だけを見ると、大きなお金に感じます。
しかし退職金は、単なる臨時収入ではありません。
場合によっては70代、80代の自分へ、60歳の自分が先に預かっている生活費でもあります。
しかも退職金を受け取る頃には、何十年も続いた毎月の給与収入が終わるケースが多いですよね。
「2,000万円入った」という感覚だけでなく、「これから給与が入らない」という変化も一緒に見る必要があります。
そのうえで十分な資金が残るなら、私は長年の夢をかなえることまで否定する必要はないと思っています。
老後のお金は、使わずに数字を眺め続けるためだけのものでもないからです。
旅行へ行く。
会いたい人に会う。
乗りたかった車に乗る。
元気だからこそ楽しめることには、時間の期限があります。
大切なのは、夢を我慢することではありません。
将来の自分の安心を犠牲にせず、今の自分も楽しめる金額を探すことなのですね。
まとめ|退職金2,000万円でポルシェを買うなら「残る資産」で判断しよう
退職金2,000万円のうち1,500万円をポルシェに使うことは、退職金が老後資産の中心ならリスクの高い選択になり得ます。
今回紹介した山下隆志さん(60歳・仮名)は、長年憧れた約1,500万円のポルシェを退職金で購入しようとしました。
しかし58歳の妻は反対。
築30年の住宅やこれからの生活もあり、最終的には安全装備を備えたクリーム色の軽ハイトワゴンを選びました。ゴールドオンライン
ここから学びたいのは、「高級車は贅沢だから買ってはいけない」という話ではありません。
退職金2,000万円しか金融資産がなく、1,500万円を使って500万円しか残らない家庭と、別に3,000万円の資産があり購入後も3,500万円残る家庭では、同じポルシェでも家計への影響はまったく違います。
だから見るべきなのは、退職金に対する購入価格の割合だけではありません。
購入後の金融資産、年金と生活費の差、住宅修繕などの大型支出、5年間程度の車関連費を確認してから予算を決めてみましょう。
もし新車1,500万円では資産寿命を縮めすぎるなら、中古車や予算の低いグレードを検討したり、購入時期をずらしたり、3~5年だけ所有したりする方法もあります。
60代の車選びで大切なのは、老後の安心か夢か、どちらか一方を捨てることではありません。
守るべきお金を先に守り、そのうえで安心して使える範囲を見つける。
そうすれば、憧れの車のハンドルを握るときにも、銀行残高を思い出してため息をつくのではなく、「この車を選んでよかった」と穏やかな気持ちで楽しめるのではないでしょうか。
よくある質問
退職金2,000万円で1,500万円のポルシェを買うのは危険ですか?
退職金2,000万円が老後資産の中心であれば、購入後に500万円しか残らないため、かなり慎重に判断したい支出です。
一方、退職金とは別に十分な預貯金や投資資産があり、年金収入で日常生活費をほぼ賄えるなら、一律に危険とは言えません。
退職金額ではなく、購入後の総金融資産と年間の取り崩し額で判断することが大切です。
退職金の何割までなら車に使っても大丈夫ですか?
誰にでも当てはまる安全な割合はありません。
退職金の20%、30%と機械的に決めるより、生活費の不足分、住宅修繕、医療・介護などに必要なお金を先に確保し、残った資金から車の予算を決めるほうが現実的です。
「購入後の金融資産÷年間取り崩し額」で資産寿命の目安も確認してみましょうね。
60歳からポルシェを買うのは遅いですか?
年齢だけで遅いとは言えません。
子どもが独立し、自分のための車を選べるようになる60代は、長年の夢を実現する機会にもなります。
ただし一生所有すると決めず、3年や5年など楽しむ期間を決め、その後は乗り降りしやすく安全装備の充実した車へ乗り換える方法もあります。
モーターライフ・アドバイザー
杉原健一



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