老後の車予算は一律に決められません。退職後の暮らしに残すお金を先に確保し、退職金や金融資産から逆算して購入上限を決めるのが基本です。
大切なのは「いくらの車を買えるか」ではなく、車を買ったあとも無理なく暮らせるか。退職金の何割という割合だけで決めないようにしましょうね。
老後の車はいくらまで?3つの予算ケースで考えよう
「結局、老後の車はいくらまでなら大丈夫なの?」というところが、一番知りたいですよね。
最初に、考え方をつかむためのモデルケースを見てみましょう。
退職後に使える金融資産の例 暮らしのために残す資金の仮定 車に回せる上限の計算例
500万円 400万円 100万円
800万円 600万円 200万円
1,500万円 1,000万円 500万円
ここで示した100万円、200万円、500万円は、老後におすすめする車の価格ではありません。
「これだけは暮らしのために残したい」と先に金額を決め、その残りを計算しただけのモデルケースです。
まだ退職金を受け取っていない方なら、基本式は次のように考えられます。
車に回せる上限=退職直前の金融資産+受取予定退職金-老後に残す資金-近い将来の大型支出
すでに退職金を受け取っている場合は、
車に回せる上限=現在の金融資産-老後に残す資金-近い将来の大型支出
と考えます。
この違いは意外に重要です。
退職金受領後の預金残高に、もう一度「退職金1,000万円」などを足してしまえば、同じお金を二重に数えることになってしまいますからね。
たとえば退職後の金融資産が1,500万円あり、1,000万円は今後の生活や住宅修繕などに残したいとします。
計算上は500万円まで車関係に回せます。
しかし、300万円の車で十分なら500万円を使い切る必要はありません。
購入可能額と適正購入額は別物です。
老後の車予算では、この区別がとても大切だと私は考えています。
退職金の何割まで車に使える?割合ではなく6ステップで決めよう
「退職金の10%なら安全?」「20%くらいなら大丈夫?」と割合で考えたくなる気持ちはよく分かります。
ただ、退職金の何割までなら安心という共通の基準はありません。
退職金が同じ1,000万円でも、住宅ローンが残っている人と、住居費負担が少なく別に十分な金融資産がある人とでは、200万円の意味がまるで違うからです。
老後の車予算は、次の6ステップで整理すると分かりやすくなります。
- ① 現在の金融資産と受取予定退職金を確認する
- ② 年金など退職後の収入を確認する
- ③ 老後の暮らしに残す資金を決める
- ④ 住宅修繕など近い将来の大型支出を差し引く
- ⑤ 車の購入総額と今後の維持費を確認する
- ⑥ 何歳まで乗る予定なのかを決める
この順番にすると、「退職金が1,000万円あるから300万円くらいの車なら大丈夫だろう」と、車だけを先に見てしまうのを防げます。
厚生労働省が公表する「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」では、退職給付について「退職給付(一時金・年金)制度」と「退職給付(一時金・年金)の支給実態」が調査されています。退職金制度や支給実態は企業によって異なるため、平均値だけではなく、自分の勤務先の制度と受取見込額を確認することが出発点になります。 厚生労働省
年金も同じです。
日本年金機構の「『ねんきんネット』による年金見込額試算」では、自分で条件を設定し、将来受け取る老齢年金の見込額を試算できます。「かんたん試算」では現在と同じ加入条件が60歳まで続くものとして試算する仕組みも用意されています。 年金ネット
老後の車を決めるときは、世間の「平均退職金」より、自分の退職金と自分の年金を見ることが何より大切ですよ。
退職金1,000万円なら車はいくらまで?
具体例で考えてみましょう。
退職直前の金融資産が300万円、受取予定退職金が1,000万円なら、合計は1,300万円です。
そこから、
- 日常生活のために残す預貯金
- 住宅の修繕費
- 家電の買い替え
- 医療や介護への備え
- 趣味や旅行に使いたいお金
- 車を購入した後の維持費
などを整理します。
そして「少なくとも1,100万円は車以外に残したい」と判断したなら、車関係へ回せる上限は200万円です。
逆に住宅費の負担が小さく、継続収入やほかの資産もあり、900万円を残せば十分だと判断できる家庭なら、400万円の余力が残ります。
ですから、
退職金1,000万円=車は200万円まで
とも、
退職金1,000万円=車は300万円まで
とも一律には言えないのです。
見るべきなのは退職金そのものではなく、購入後に残るお金なんですね。
老後の車予算は「車両価格」ではなく何年乗るかまで考える
車を選び始めると、どうしても販売価格に目が行きます。
200万円の車と300万円の車が並んでいれば、「100万円の差」と考えますよね。
ですが老後の車では、購入した瞬間より、その後の5年、10年のほうが長く続きます。
車を所有している間には、
- 自動車税・軽自動車税
- 自動車保険
- 燃料代や充電費用
- 車検
- 点検・整備
- タイヤ交換
- バッテリー交換
- 故障時の修理
- 駐車場代
などがかかります。
そこで私は、「車両価格」ではなく「車生活全体の予算」として考えることをおすすめしています。
たとえば年間維持費を仮に30万円と置けば、10年間では単純計算で300万円です。
年間40万円なら400万円になります。
これは特定車種の実際の維持費を示す数字ではなく、維持費を含めて考えるための仮想モデルです。
実際には車種、排気量、走行距離、燃料価格、保険条件、駐車場代、整備内容によってかなり変わります。
それでも、
200万円の車を買う=車に200万円しか使わない
ではないことは分かりますよね。
200万円と300万円の車は10年間でどれくらい差が広がる?
ここでも考え方をつかむために、仮想的な比較をしてみましょう。
200万円の車と300万円の車があり、300万円の車のほうが燃料、タイヤ、保険などを合わせた維持費が年間5万円多いと仮定します。
すると、
- 購入時の差額:100万円
- 維持費差:年間5万円
- 10年間の維持費差:50万円
- 10年間の合計差:約150万円
という計算になります。

もちろん「大きな車なら必ず年間5万円高い」という意味ではありません。
税金や保険料、燃費、タイヤ代は車種や条件によって異なるため、ここでは仮想的な維持費差として置いています。
しかし購入価格だけなら100万円だった差が、長く所有するうちに150万円ほどへ広がる可能性があると考えると、選び方が少し変わってきますよね。
私がディーラーでお客様とお話ししていたときにも、車両価格だけを見て予算を決めてしまう方は少なくありませんでした。
ところが、車検、タイヤ、保険、燃料まで一緒に整理すると、
「買うことはできるけれど、維持することを考えると一つ下のクラスでもいいですね」
と候補が変わることがありました。
老後では、この「買える」と「持ち続けられる」の違いが、現役時代以上に大きくなります。
老後資金を守るなら、安い中古車を選べばいい?
購入費を抑えるなら、中古車は有力な選択肢です。
ただし、老後の車を価格だけで古い車へ絞り込むのはおすすめしません。
理由は安全装備です。
国土交通省は2020年1月31日、「乗用車等の衝突被害軽減ブレーキに関する国際基準を導入し、新車を対象とした義務付けを行います。~道路運送車両の保安基準の細目を定める告示等の一部改正について~」を公表しました。 国土交通省
対象となる国産車では新型車が2021年11月、継続生産車が2025年12月、輸入車では新型車が2024年7月、継続生産車が2026年7月から適用されるスケジュールが示されています。なお、国産の軽トラックについては継続生産車の適用時期が2027年9月とされています。 国土交通省
さらに国土交通省は2025年6月17日、「ペダル踏み間違い時加速抑制装置の搭載を義務づけます!~道路運送車両の保安基準等の一部改正について~」を公表しました。 国土交通省
この改正では、電気自動車を含むクラッチペダルのない乗用車を対象に、国際基準へ適合したペダル踏み間違い時加速抑制装置の搭載を義務づけ、新型乗用車について2028年9月1日、輸入車について2029年9月1日から適用するとしています。 国土交通省
ここで大切なのは、安全装備は車名だけでは判断できないという点です。
中古車なら同じ車名でも、年式やグレードによって装備が変わることがあります。
販売店では、
「衝突被害軽減ブレーキはありますか?」
だけではなく、
「この年式・このグレードでは何を検知しますか?」
「ペダル踏み間違い時の加速抑制機能はありますか?」
「前進だけですか、後退時にも対応しますか?」
と、一段具体的に確認してみてくださいね。

国土交通省自身も、衝突被害軽減ブレーキなどの運転支援装置は安全運転を支援するものであり、機能には限界があるため過信しないことが重要だと案内しています。 国土交通省
ですから安全装備の多い車を買えば事故を防げる、と考えるのも違います。
安全装備は運転を助ける「補助役」であって、運転そのものの代わりではないという理解が必要ですね。
老後資金を節約するなら、大径ホイールや豪華な内装など優先順位の低い装備を抑え、安全性や乗り降りのしやすさ、取り回しへ予算を振り分ける方法もあります。
私はそのほうが、年齢を重ねて長く使う車では満足につながりやすいと感じています。
金融資産500万円・800万円・1,500万円ではどう選ぶ?
では、冒頭のモデルケースを実際の車選びへ落とし込んでみましょう。
ポイントは単に「何万円の車を買うか」ではなく、その資産状況なら車をどのように持つのが自然なのかまで考えることです。
金融資産500万円なら「本当に所有が必要か」も確認する
退職後の金融資産が500万円あり、400万円を今後の生活や修繕への備えとして残したいなら、モデル上の余力は100万円です。
この場合、新車だけを条件にすると選択肢はかなり限られます。
高年式中古車や軽自動車、コンパクトカーなどを検討するとともに、車の利用頻度が少ないなら所有そのものを見直す価値があります。
たとえば、
- 週に何日使うのか
- 通院に必要なのか
- 買い物は徒歩や公共交通で代替できるか
- 家族と共有できるか
- レンタカーやタクシーで代替した場合はいくらになるか
を一度書き出してみてください。
月に数回しか使わないのなら、車を買わないことで100万円を丸ごと残せる可能性もあります。
「老後になったら安い車を買う」だけが答えではありません。
車が必要な暮らしかどうかを先に確認する。
ここまで考えると、車予算の見え方はかなり変わりますよ。
金融資産800万円なら200万円を使い切らない
金融資産800万円のうち600万円を残すなら、モデル上の余力は200万円です。
ただし200万円を上限とするなら、200万円の車両本体価格を探すのではなく、実際に支払う購入総額で考えたいところです。
車両本体以外にも、税金、登録関係の費用、必要な用品などが発生する場合があります。
販売店では、
「車両本体はいくらですか?」
だけで終わらせず、
「この内容で契約した場合、最終的な支払総額はいくらになりますか?」
と確認してみてください。
さらに購入後には保険や燃料、点検、車検などが続きます。
上限200万円なら190万円台まで使い切るのではなく、購入後の出費に備えて余白を取る考え方もあります。
老後の家計では、この余白がクッションになります。
車はピッタリサイズの靴より、少し余裕のある靴のほうが長く歩きやすい――そんなイメージに近いですね。
金融資産1,500万円でも500万円使う必要はない
金融資産1,500万円のうち1,000万円を残すなら、モデル上は500万円の余力があります。
だからといって、500万円の車を選ぶ必要はありません。
300万円の車で自分の使い方を十分満たせるなら、200万円を残せます。
その200万円は、
- 将来の車検や修理
- 住宅修繕
- 趣味
- 旅行
- 家族との時間
- 次回の買い替え
にも使えます。
一方、車が大切な趣味で、
「退職したら夫婦で長距離旅行をしたい」
「好きな車で各地を巡りたい」
という明確な目的があり、ほかの生活資金にも十分な余裕があるなら、車へ多くのお金を振り分ける考え方も否定する必要はありません。
老後だから安い車にしなければならないわけではないんですね。
大切なのは、その車を選ぶことで何を得て、代わりに何に使えるお金が減るのかを理解することです。
ディーラーで見てきた「車は買えたのに家計が苦しくなる」パターン
長年販売現場でお客様とお話ししてきて、老後の車予算で特に注意したいと感じるパターンがあります。
ここでは複数の相談で見てきた傾向を、一つのモデルケースとしてまとめてみます。
退職を迎え、まとまった退職金が入る。
住宅ローンも以前より減っている。
そこで、
「長年頑張ったんだから、最後くらい好きな車を買おう」
と、現役時代と同じクラスの車を一括購入する。
購入した時点ではローンがないので、とても安心して感じます。
ところが数年後、住宅の外壁や給湯器の修繕、家電の買い替え、タイヤ交換、車検などが重なってきます。
一つ一つは想定できる支出でも、同じ時期に重なると、預金残高の減り方が思った以上に速く感じられるんですね。
そこで初めて、
「車にもう少し使わなければよかったかな」
という話になることがあります。
これは高級車を買ったこと自体が悪いわけではありません。
問題は、車を買う前に、その後に残したいお金の役割を決めていなかったことです。
私はディーラー時代、退職前後のお客様に用途を伺うと、最初は現役時代と同じ大きさの車を希望していても、
「今は夫婦2人ですよね」
「普段は買い物と通院が中心ですね」
「大人数で乗るのは年に何回でしょう」
と整理するうちに、
「それなら一回り小さくても十分だね」
と候補が変わる場面を何度も見てきました。
車を小さくすることは、単なる節約ではありません。
今の生活に必要なだけの車を持つことは、老後資金に余白を作る方法でもあるのです。
老後の車は何歳まで乗る?購入時に「出口」を決めておこう
ここからは私見です。
私は老後の車予算には、購入価格と維持費に加えて、何歳で一度見直すかという「出口年齢」を入れてほしいと思っています。
60歳で購入して10年間乗れば70歳。
15年間なら75歳です。
購入時には問題なくても、その間に生活は変わります。
「夜の運転が疲れるようになった」
「幅の広い車で駐車するのが大変になった」
「夫婦2人なので後席をほとんど使わなくなった」
「通院先が変わり、車を使う頻度が減った」
そんな変化は十分考えられます。
ですから、
「60歳で最後の一台を買って一生乗る」
と決めるより、
「60歳で買い、70歳で一度車との付き合い方を見直す」
くらいのほうが柔軟です。
この視点を持つだけでも、選ぶ車が変わります。
購入価格だけでなく、
- 乗り降りしやすいか
- 駐車しやすいか
- 維持費を負担し続けられるか
- 将来手放しやすいか
- 生活が変わっても使いやすいか
を見るようになるからです。
私は、老後の車には「やめる自由」も残しておくことが大切だと思っています。
高額な車を買うと、
「せっかくこれだけ払ったのだから、まだ乗らないともったいない」
という気持ちが生まれやすいですよね。
しかし運転が負担になれば、
小さい車へ替える。
1台減らす。
車を手放す。
必要な日だけレンタカーやタクシーを使う。
そうした変更ができてもいいはずです。
車は人生を縛るものではなく、暮らしを便利にするための道具です。
買うときから手放すときまで考えて予算を決める。
これが、老後の車選びでは意外に大きな意味を持つと私は考えています。
まとめ|老後の車はいくらまでかは「残すお金」から逆算する
老後の車はいくらまでなら安心なのかに、100万円、200万円、300万円といった万人共通の正解はありません。
基本は、
金融資産+受取予定退職金-老後に残す資金-近い将来の大型支出
という順番で考えます。
すでに退職金を受け取っているなら、現在の金融資産に退職金を再び足さないようにしてくださいね。
そのうえで、
①資産を確認する→②年金を確認する→③残す資金を決める→④大型支出を差し引く→⑤購入総額と維持費を見る→⑥何歳で見直すか決める
という6ステップで考えると整理しやすくなります。
500万円なら100万円、800万円なら200万円、1,500万円なら500万円という例も、あくまで「残す金額」を仮定した計算モデルです。
そして車は、買った日で支出が終わるものではありません。
購入後の保険、燃料、車検、整備、タイヤなども含めて、これから乗る期間全体で考えることが大切です。
安全面についても、新車か中古車かだけではなく、年式とグレードごとの装備内容まで確認してみてください。
私が老後の車選びで最後に考えていただきたいのは、
「この車を買ったあとも、自分らしい暮らしのためのお金が残るだろうか」
ということです。
退職金は、ただ減らさないためのお金ではありません。
生活を守るためのお金もあれば、旅行や趣味を楽しむためのお金もあります。
その中で車にどれだけ振り分けるのか。
順番さえ間違えなければ、自分にとって無理のない答えが見つけやすくなりますよ。
よくある質問
老後の車は退職金の何割までなら安心ですか?
「10%まで」「20%まで」と一律には決められません。
退職金だけでなく、金融資産、年金、住宅費、住宅修繕、今後の生活費などが家庭によって違うためです。
暮らしに残すお金を先に決め、その残りから車予算を出す方法が現実的です。
金融資産500万円なら車は100万円までですか?
必ず100万円までという意味ではありません。
500万円のうち400万円を生活や将来の支出へ残すと仮定した場合、100万円が残るという計算例です。
年金収入や住宅費、車の必要性などによって適正額は変わります。
退職金1,000万円なら300万円の車を買えますか?
購入できるかだけなら判断できません。
退職金以外の金融資産、年金、住宅ローン、今後の大型支出などを含め、300万円を支払った後に必要なお金が残るかで考えてください。
同じ退職金1,000万円でも、適正な車予算は家庭ごとに違います。
退職金で車を一括購入するのは問題ありませんか?
一括購入そのものが問題なのではありません。
重要なのは、一括購入後にも日常生活、住宅修繕、緊急時の支出、車の維持費などへ対応できる資金が残るかどうかです。
手元資金が大きく減るなら、購入価格を下げる選択肢も比較してみましょう。
老後は新車と中古車のどちらが向いていますか?
購入費を抑えやすいのは中古車ですが、安全装備は年式やグレードによって異なります。
新車・中古車という区分だけで決めず、購入総額、今後の維持費、安全装備、乗る予定年数、何歳で見直すかまで合わせて比較するのがおすすめです。
杉原健一
モーターライフ・アドバイザー


コメント