60代の最後の車は、安全・小回り・乗降性・維持費・手放しやすさを70代の暮らしまで想像して選ぶことが、後悔を減らす近道です。
人生最後かもしれない一台だからこそ、「好き」だけでも「安全」だけでも決めないこと。毎日の買い物や通院、遠出の頻度まで含めて考えると、自分に合う車がずっと見えやすくなりますよ。
60代の最後の車は、なぜ「70代の自分」を基準に選ぶべき?
結論から言えば、60代で買う車は「今ちょうどいい」より「70代でも自然に扱える」を優先することが大切です。
警察庁が公表した2025年(令和7年)の交通事故分析では、75歳以上の高齢運転者による死亡事故は397件でした。免許保有者10万人当たりでは4.8件で、75歳未満の2.5件に対して約2倍となっています。警察庁+1
さらに警察庁は、75歳以上の自動車運転者による死亡事故について、人的要因のうち「操作不適」が33.1%を占め、75歳未満の10.7%より割合が高いと分析しています。75歳以上の操作不適による死亡事故120件のうち、ブレーキとアクセルの踏み違いは31件でした。警察庁
もちろん、これは「75歳になったら運転が危険になる」という意味ではありません。
年齢だけで運転能力を決めつけることはできませんし、体力や視力、運転経験、生活環境には大きな個人差があります。
ただ、60代半ばで車を購入して8年、10年と乗れば、その車で75歳前後を迎える可能性は十分あります。
だから私は、60代の車選びでは「10年後の自分を助手席に座らせる」ような感覚で考えることをおすすめしています。
長年メーカー直営ディーラーでお客様の車選びに接してきましたが、買い替え相談では「昔は大きい車でも平気だったけれど、最近は駐車が少し億劫でね」といったように、車そのものではなく生活との相性が変わる場面を何度も見てきました。
若い頃なら、馬力やデザイン、荷室の広さを最優先してもよかったでしょう。
しかし60代からは、そこへ次の5条件を加えてみてください。
- 安全性:衝突被害軽減ブレーキや踏み間違い抑制などが充実しているか
- 扱いやすさ:車幅、全長、小回り、視界に無理がないか
- 乗り降りしやすさ:腰や膝へ負担がかかりすぎないか
- 維持しやすさ:退職後も税金、燃料、保険、消耗品を無理なく負担できるか
- 手放しやすさ:予定より早く車を降りる場合にも売却しやすいか
この5つは、豪華装備のように買った日に感動するものではありません。
むしろ毎日の小さな負担を減らす、いわば「10年後に効いてくる装備」なんですよね。
70代まで乗るなら安全装備は何を見る?サポカー2.0にも注目
60代の最後の車では、安全装備の数より「自分がミスしやすい場面をどこまで補ってくれるか」を見ましょう。
これまで車選びの目安として知られてきたのが「サポカー」や「サポカーS」です。
国土交通省は2017年から、衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置などを搭載する安全運転サポート車の普及を進めてきました。国土交通省+1
ここで押さえておきたい新しい動きがあります。
国土交通省は2026年7月24日、「サポカー2.0」へ発展させる方針を発表しました。従来の装置だけでなく、ドライバーモニタリングシステムなど、より高度な先進安全技術まで対象を広げて普及を進める考えです。国土交通省
つまり、これから60代で「最後の車」を買う方は、昔の「サポカーSワイドかどうか」だけで判断するのではなく、実際にどんな安全機能が備わっているかを一つずつ確認する時代になっているわけです。
私なら、少なくとも次の機能を重点的に確認します。
- 衝突被害軽減ブレーキ
- 前後の誤発進・踏み間違い抑制
- 車線逸脱警報や車線維持支援
- ブラインドスポットモニター
- 駐車時の障害物検知や周辺カメラ
- ACCなど長距離運転の負担を軽くする支援
- ドライバーの状態を確認する機能がある場合は、その内容
ただし、ここで忘れてほしくないことがあります。
安全装備は「見えにくい車を安全な車に変える魔法」ではありません。
メーカー自身も、運転支援技術には能力の限界があり、周囲を確認して安全運転を行う必要があると案内しています。たとえばホンダ・フィットでは、衝突軽減ブレーキ、誤発進抑制、ACC、車線維持支援、パーキングセンサーなど複数の運転支援機能が設定されていますが、装備内容はタイプやオプションによって異なります。Honda Japan
だから私は、「人間が扱いやすい車+安全装備」という順番を大切にしています。
そもそも車幅をつかみやすい。
前方や斜め前方が見やすい。
アクセルとブレーキを自然に踏み替えられる。
そのうえで電子制御が助けてくれる。
こちらのほうが、最初から機械だけを頼りにするより自然ですよね。
中古車を選ぶ場合は、さらに注意してください。
同じ「フィット」「スペーシア」「カローラ」といった車名でも、年式や改良時期、グレードによってカメラやセンサー、安全装備の内容が変わります。
ですから中古車では、車名だけではなく「年式+グレード+安全装備」で確認することが重要です。
「同じ車種なら安いほうでいいかな」と数十万円の差だけを見るのではなく、安全装備の世代差まで見て判断してみてくださいね。

60代の最後の車におすすめの5車種は?同じ基準で比較
今回の候補として、スペーシア、フィット、カローラツーリング、CX-30、シエンタの5車種を同じ軸で比べてみましょう。
先に結論を言えば、近距離中心ならスペーシア、コンパクトさのバランスならフィット、遠出を続けるならカローラツーリング、SUVらしい乗車感を求めるならCX-30、家族を乗せる機会が多いならシエンタが分かりやすい候補です。
車種 全長×全幅 最小回転半径 乗降・日常性 向いている使い方
スズキ スペーシア 3,395×1,475mm 4.4m中心 高めの室内・スライドドア 買い物、通院、狭い道
ホンダ フィット 約3,995~4,095×1,695~1,725mm 4.9~5.2m コンパクトで視界を確認しやすい 街乗りから小旅行
トヨタ カローラツーリング 4,495×1,745mm 5.0m※仕様による ワゴンで荷室を使いやすい 高速道路、旅行
マツダ CX-30 4,395×1,795mm 5.3m SUV型で着座姿勢を作りやすいか要試乗 街乗り+遠出
トヨタ シエンタ 4,260×1,695mm 5.0m スライドドア・多人数対応 家族送迎、買い物、旅行
スペーシアは全長3,395mm、全幅1,475mmで、主要グレードの最小回転半径は4.4mです。軽自動車ならではの小さな外寸は、狭い住宅街やスーパーの駐車場で大きな助けになります。スズキ+1
「これからは遠出より、買い物と通院が中心になりそう」という方には、かなり理にかなった選択です。
一方で、高速道路を頻繁に利用する方や、軽自動車と普通車の乗り味・衝突安全性の違いが気になる方は、試乗や公的な衝突安全評価も含めて比較したほうがよいでしょう。
軽だから危険、普通車なら安全と単純には決められません。予防安全装備、衝突時の評価、使う道路環境を分けて考えることが大切です。
フィットは、グレードによって全長3,995~4,095mm、全幅1,695~1,725mm。最小回転半径も4.9~5.2mで、普通車として扱いやすい寸法に収まっています。Honda Japan+1
「軽自動車までは小さくしたくないけれど、大きなSUVはもう必要ない」という方には、この中間サイズがちょうどよく感じられるでしょう。
Honda SENSING系の運転支援もありますが、ブラインドスポットインフォメーションなど一部装備はグレードやオプションによって違います。購入時は「フィットなら全部同じ」と考えず、仕様表まで確認してください。Honda Japan
カローラツーリングは全長4,495mm、全幅1,745mm、全高1,460mm。トヨタは最小回転半径5.0mの仕様を案内しており、フロントピラーやドアミラー位置にも前方視界への配慮が施されています。トヨタ自動車WEBサイト+1
この5台の中では長めですが、「夫婦で温泉へ行く」「高速道路で帰省する」「荷物を積んで旅行する」という暮らしがまだ続くなら、ワゴンという選択は魅力的です。
大切なのは、高速道路で便利だからという理由だけで決めず、自宅や病院、いつものスーパーの駐車場で4,495mmの全長を無理なく扱えるかを見ることです。
CX-30は全長4,395mm、全幅1,795mm、全高1,540mm、最小回転半径5.3mです。2026年7月時点のマツダ公式諸元でも、この寸法が確認できます。Mazda+1
SUVらしいスタイルを楽しみながら、大型SUVほど長くない車を探したい方には候補になります。
ただし全幅1,795mmは、フィットやシエンタより100mm広い数字です。
100mmと聞くと「たった10cm」と思うかもしれませんが、狭い駐車場では左右5cmずつの差になります。
若い頃には気にならなかった5cmが、70代では「今日は隣の車に近いな」と神経を使う5cmになるかもしれません。
ですからCX-30は、数字だけで「コンパクトSUVだから大丈夫」と決めず、自宅車庫への出し入れを想定した試乗をおすすめします。
シエンタは全長4,260mm、全幅1,695mm。2WDの全高は1,695mmで、最小回転半径は5.0mです。トヨタ自動車WEBサイト+1
スライドドアを持つので、家族を乗せたり、大きくドアを開けにくい駐車場を使ったりする生活と相性があります。
「孫を乗せることがある」「夫婦だけでなく家族も乗る」という方には便利でしょう。
ただ、ここで考えたいのは“たまに7人乗れる”ことより“毎日一人でも楽に使える”ことです。
年に数回しか多人数乗車をしないなら、その数回のためだけに10年間そのサイズを所有する必要があるのか、一度考えてみてください。
人生最後の車では、年に2回の特別な日より、残りの363日の使いやすさを優先する。
私は、この考え方がとても大切だと思っています。
70代まで後悔しない試乗方法は?「75歳の一日」を再現しよう
60代の最後の車では、スペック表だけで決めず、乗る・曲がる・停める・降りるまで一連の動作を試乗で確認することをおすすめします。
ここで私が提案したいのが、「75歳の普通の一日」を想像する方法です。
朝、自宅の車庫から車を出す。
病院へ行く。
スーパーへ寄る。
買い物袋を積む。
夕方、少し暗くなってから帰宅する。
特別なドライブではありません。
けれど人生最後の車で本当に大切なのは、こうした普通の日を無理なくこなせることなんです。
試乗では、まず運転席へ座るところから確認してください。
腰を大きく沈めなければならない低い車はつらくないか。
逆に、身体を持ち上げるように乗り込む高さではないか。
玄関の椅子へ自然に腰掛けるくらいの感覚で乗れるなら、長く付き合いやすいでしょう。
次に、前方だけではなく斜め前方を見ます。
交差点で右左折するつもりで、Aピラー周辺にどのくらい死角ができるか。
横断歩道の歩行者や自転車を想定し、首を少し動かしたときに確認しやすいかを見てください。
そして駐車です。
バックカメラや360度モニターがあっても、画面だけを見て終わらせないようにしましょう。
左右のドアミラー、後方、車両の四隅が自分の感覚と結びついているかを確認します。
カメラは答えを出す先生というより、見落としを減らす補助線くらいに考えるとよいですね。

もう一つ、ぜひ確認してほしいのがペダルです。
シートを正しい位置に合わせた状態で、アクセルからブレーキへ自然に踏み替えられるか。
膝が窮屈ではないか。
かかとを大きく持ち上げなければならない姿勢になっていないか。
販売スタッフに遠慮して、最初に設定されていたシート位置のまま5分走って「まあ大丈夫かな」で終わらせないでください。
シートの前後、高さ、背もたれ、ハンドル位置を調整し、自分に合う運転姿勢を作れるかまでが試乗です。
さらに操作系も見ておきましょう。
最近の車は便利な反面、運転支援、エアコン、メーター、ナビなどの操作が増えています。
機能が多ければ多いほど良いとは限りません。
70代になったとき、よく使うスイッチがすぐ分かるか。
画面を何階層も開かなければ操作できない機能ばかりではないか。
私は、安全装備の性能と同じくらい「迷わず使えること」も最後の車の性能だと考えています。
人生最後の車は維持費・リセール・楽しさをどう両立する?
人生最後の車では、購入価格ではなく「乗り続けられる総負担」と「それでも乗りたい気持ち」の両方を見ることが大切です。
60代では、現役中に購入しても、その後に退職や働き方の変化を迎える方が少なくありません。
車には購入代金以外にも、税金、任意保険、車検、点検、燃料、タイヤ、バッテリーなどの費用が続きます。
特に見落としやすいのが消耗品です。
車体の大きなSUVでは、タイヤサイズによって交換費用が高くなることがあります。
逆にコンパクトカーや軽自動車へサイズダウンすると、燃料費だけでなく、タイヤなどを含めた維持費全体を抑えやすくなる場合があります。
私は、固定費を下げることは「車を楽しめる年数を延ばすこと」でもあると思っています。
維持費が苦しくなって車を降りるのと、自分で「そろそろ十分楽しんだな」と納得して降りるのでは、同じ免許返納でも気持ちはかなり違いますよね。
そして「最後の車だから売却価格は関係ない」とも考えないほうがよいでしょう。
免許を返納する時期は、購入時には分かりません。
健康状態が変わるかもしれませんし、家族の状況が変わるかもしれません。
引っ越して公共交通が便利になることもあるでしょう。
予定より早く手放すとき、一定の中古車需要がある車なら、その売却資金をタクシーや公共交通など次の移動手段へ回す選択肢も生まれます。
だから私は「乗り潰すための最後の車」より、必要なら途中でも気持ちよく降りられる最後の車のほうが、60代には合っていると考えています。
ただし、安全とお金ばかりで決めてしまうのも少し違います。
人生最後の車が、毎朝見るたびにため息の出る「ただの移動装置」になってしまったら寂しいですよね。
色が好き。
デザインが好き。
静かに走る感じが好き。
運転席に座ると落ち着く。
このくらいの「好き」は残してください。
最後の車だからといって、安全100点、維持費100点、楽しさ20点を選ぶ必要はありません。
私はむしろ、安全80点、扱いやすさ80点、維持しやすさ80点、楽しさ80点の車のほうが、長い付き合いでは幸せになりやすいと考えます。
車選びは入学試験ではありません。
合計点が一番高い車ではなく、自分の日常に穴がない車を選ぶものです。
最後に、家族とも一度だけ話しておきましょう。
「何歳で必ず返納する」と今決める必要はありません。
それよりも、「夜の運転が怖くなったら見直す」「小さな接触が増えたら一緒に考える」「家族が同乗して不安を感じるようになったら相談する」といった、運転を見直すサインを共有しておくほうが現実的です。
人生最後の車を選ぶことは、車を降りる準備ではありません。
私はむしろ、最後まで安心して車を楽しむための準備だと思っています。
60代の一台は、若い頃のように「欲しい車を買って、合わなければまた次へ」という選び方とは少し違います。
70代になっても買い物へ行ける。
病院へ行ける。
好きな場所へ出かけられる。
そして必要なときには、納得して車を手放せる。
そんなところまで含めて選べたら、それは十分に「いい最後の車」ではないでしょうか。
まとめ|60代の最後の車は「毎日使える5条件」で選ぼう
60代の最後の車で優先したいのは、安全性・扱いやすさ・乗降性・維持しやすさ・手放しやすさの5条件です。
警察庁の2025年統計では、75歳以上の運転者による死亡事故は免許保有者10万人当たり4.8件で、75歳未満の2.5件のおよそ2倍でした。だからこそ、60代で買う車は「現在の自分」だけでなく、70代になった自分の視界や操作、生活まで考えて選ぶ意味があります。警察庁
候補を用途別に整理するなら、近距離と小回りを優先するならスペーシア、コンパクトな普通車ならフィット、遠出を続けるならカローラツーリング、SUVを楽しむならCX-30、家族乗車とスライドドアを重視するならシエンタが分かりやすいでしょう。
ただし、これは順位ではありません。
大切なのは、自宅の駐車場、よく行くスーパー、病院、旅行の頻度、家族を乗せる回数まで想像することです。
最後の車ほど「いつか必要かもしれない機能」より、毎日ストレスなく使える普通の便利さを大切にしてください。
そして最後に、少しだけ「この車が好きだな」という気持ちも残しておきましょう。
70代になった朝も、駐車場を見て「今日もこれで出かけよう」と思える車。
それが、その人にとって本当に後悔しにくい「最後の一台」だと私は考えています。
よくある質問
60代で買う車は本当に人生最後の車になりますか?
必ず最後になるとは限りません。
60代前半で購入して数年後にもう一度買い替える方もいるでしょう。ただ、8~10年以上所有すれば70代まで乗る可能性があるため、次の買い替えを当然の前提にせず選んでおくと安心です。
70代まで乗るなら軽自動車と普通車のどちらがいいですか?
利用環境によって変わります。
近距離の買い物や通院、狭い道が中心なら、スペーシアのような小回りの利く軽自動車は有力です。高速道路や長距離移動が多ければ、フィットやカローラツーリングなど普通車も実際に試乗して比較するとよいでしょう。
軽自動車か普通車かだけで安全性を決めず、予防安全装備、衝突安全評価、視界、自分が扱える車幅まで確認してください。
人生最後の車は新車と中古車のどちらがおすすめですか?
どちらにもメリットがあります。
新車は最新世代の運転支援機能を選びやすく、中古車は同じ予算で装備の充実したグレードを狙えることがあります。
ただし中古車では、同じ車名でも年式やグレードで安全装備が違います。「車名」だけで探さず、年式・グレード・搭載されている安全機能まで確認することが重要です。
執筆:杉原健一(モーターライフ・アドバイザー)



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