定年前の高級車購入は、車を買ったあとに老後資金がいくら残り、退職後の収入で維持できるかで判断するのが基本です。
退職金が入ると800万円、1000万円の車も現実的に見えますよね。しかし大切なのは「払えるか」ではなく、「払ったあとも安心して暮らせるか」です。
定年前に高級車を買って大丈夫?まず4つの数字を確認
結論からいうと、年齢だけで「高級車を買ってよい・悪い」は決まりません。購入後の金融資産、退職後の収支、住宅ローンなどの負債、年間維持費の4つをセットで見る必要があります。
私なら、欲しい車の見積書を見る前に次の数字を書き出します。
- 高級車購入後に残る金融資産
- 退職後の年間手取り収入と生活費
- 住宅ローンなど車以外の負債
- 車のローン返済を含む年間維持費
退職金で一括購入できるとしても、それだけでは安心とはいえません。
退職金は車専用のお金ではなく、住宅修繕、家電の買い替え、医療・介護への備え、趣味や旅行など、その後の生活を支える資金でもあるからです。
国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、2024年に1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は478万円、男性は587万円でした。
1000万円の車は、男性の平均給与587万円と単純比較すると約1.7年分です。
ただし、これは税引前年間給与と車両価格を比較しただけで、実際の購買力や購入可能額を示すものではありません。あくまで「1000万円という金額の大きさ」をつかむための目安として見てくださいね。
もう一つ参考になるのが、金融経済教育推進機構(J-FLEC)の「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」です。
金融資産を保有していない世帯を含めた50歳代の金融資産保有額は、次のようになっています。
世帯区分 平均値 中央値
50歳代・二人以上世帯 1,908万円 700万円
50歳代・単身世帯 999万円 120万円
J-FLECの2025年調査では、二人以上世帯は全国5000世帯を対象に2025年6月20日~7月2日に実施されています。
ここで注目したいのは、二人以上世帯で平均1,908万円なのに対し、中央値は700万円という大きな差です。
平均だけを見て「50代なら2000万円近く持っているのが普通」と考えるのは少し危険なんですね。
高級車購入でも同じです。
周囲が何に乗っているかではなく、自分の資産と負債を差し引いたあとの余力を見る。
これが定年前の車選びで最初に持っておきたい物差しです。
1000万円の高級車は老後資金から見るとどれほど大きい?
1000万円の高級車は、65歳以上夫婦の平均的な消費支出に置き換えると約3年分に相当します。
総務省統計局「家計調査報告 2025年」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、1か月平均で次のようになっています。
- 実収入:25万4,395円
- 可処分所得:22万1,544円
- 消費支出:26万3,979円
消費支出26万3,979円を12か月にすると約316万8,000円です。
1000万円をこの消費支出と単純比較すると、約3.2年分になります。
もちろん、これは「1000万円の高級車は買ってはいけない」という意味ではありません。
金融資産が十分にあり、退職後も働く予定があり、年金などの収入で生活費と維持費を無理なく賄える家庭なら意味合いは変わります。
重要なのは、1000万円をショールームの価格だけで見ないことです。
2000万円の車の隣に1000万円の車が並んでいれば、「こちらなら現実的かな」と感じますよね。
でも家計表の横に「老後の生活費約3年分」と書くと、見え方が変わります。
私はこれを「ショールームの物差し」と「暮らしの物差し」の違いだと考えています。
どちらか一方だけではなく、両方を見ながら決めることが大切です。
年金についても確認しておきましょう。
厚生労働省が公表している令和8年度の老齢基礎年金の満額は、昭和31年4月2日以降生まれの場合、1人あたり月額7万608円です。
もちろん会社員として厚生年金に加入してきた方は、老齢基礎年金に厚生年金が加わるのが一般的です。
実際の受給見込額は加入期間や給与によって違いますので、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」などで自分の数字を確認しておきたいところです。
現役時代の給与で1000万円の車を維持できても、65歳以降は家計の収入構造そのものが変わります。
現役中に買えるかではなく、退職後にも気持ちよく持ち続けられるか。
ここまで見ると、定年前に高級車を買って大丈夫かどうかが、かなり具体的になりますよ。
定年前の高級車予算は「買ったあとに残るお金」から逆算する
高級車の予算には、万人共通の「退職金の○%まで」という安全基準はありません。そこで私は、先に老後へ残したいお金を確保し、最後に車の予算を決める方法が分かりやすいと考えています。
基本的な考え方は、
金融資産+退職金-住宅ローンなどの負債-老後に確保したい資金=車に回せる候補額
です。
仕組みを見るため、800万円の高級車を検討する3つの仮定を比べてみましょう。
ケース 金融資産等 住宅ローン残など 車両価格 単純計算後の余力
A 3,500万円 0円 800万円 2,700万円
B 2,000万円 500万円 800万円 700万円
C 1,500万円 0円 1,000万円 500万円
※税金、購入諸費用、将来の生活費、資産価格の変動などを含まない説明用の単純計算です。
同じ800万円の高級車でも、AとBでは家計への重さがまったく違います。
Bの場合、2000万円あるから800万円を払えると考えるのではなく、住宅ローン500万円まで含めると、単純な余力は700万円です。
Cでは1000万円の車を現金購入できても、金融資産は500万円しか残りません。
ここで見るべきなのは「現金一括で払えた」という達成感ではありません。
給湯器が壊れたり、自宅の修繕が必要になったりしても、慌てずに対応できるかです。
ディーラーの店頭で長くお客様の購入相談に接してきた経験でも、車の予算だけなら成立していても、住宅費や家族の支出まで聞くと見え方が変わるケースは珍しくありませんでした。
だから私は、車両価格から考え始めるより、車を買った翌日にも残しておきたい生活防衛資金から逆算する方が、定年前には相性がよいと考えています。
高級車は年間維持費まで含めていくらかかる?
高級車では車両価格だけでなく、燃料、税金、任意保険、車検、タイヤ、点検、修理などの継続費用を見る必要があります。
ここは「高級車なら年間50万円」「80万円」と一括りにするより、検討している車の条件から一つずつ積み上げる方が正確です。
たとえば2026年8月時点で、レクサスLS500h「EXECUTIVE」AWDのメーカー希望小売価格は1,773万円です。
レクサス公式の価格表・車両情報では、LS500h AWDのWLTCモード燃費は12.5km/Lとされています。
ここから年間1万km走る場合の燃料費を説明用に計算してみましょう。
ガソリンを仮に1L=180円とすると、
1万km÷12.5km/L×180円=年間14万4,000円
です。
これは国土交通省審査値の燃費をそのまま使った単純計算であり、実燃費やガソリン価格によって実際の負担は変わります。
さらに任意保険、車検、点検、タイヤ、消耗品などが加わります。

たとえば説明用として、燃料以外の車関連支出を年間35万円と仮定すれば、燃料14万4,000円との合計は約49万4,000円です。
年間55万円なら10年間で550万円、年間80万円なら800万円になります。
ここで示した35万円、55万円、80万円は実績値ではなく、維持費の考え方を理解するための仮定です。
実際には車種、等級、走行距離、駐車場代、タイヤサイズ、整備内容によって大きく変わります。
ですから購入前には販売店や保険会社で、
- 年間走行距離を入れた燃料費
- 乗り換え後の任意保険料
- タイヤ4本の交換費用
- 定期点検と車検費用
- メーカー保証終了後の修理リスク
まで確認してみてくださいね。
高級車では本体価格ばかりに目が向きますが、老後家計で効いてくるのは、毎年少しずつ出ていく費用です。
私は「車両価格+予定保有年数の維持費」までを一つの買い物として見ることをおすすめします。
たとえば1000万円の車を10年保有し、平均維持費を仮に年60万円と置けば、単純合計は1600万円です。
もちろん最後に売却代金が入る可能性はありますが、中古車相場は将来保証されません。
購入時の値札だけでなく、所有期間全体を見ることが定年前では特に大切なんですね。
退職金800万円を高級車に使うのは大丈夫?
退職金から800万円を車に使う場合、購入後にも十分な金融資産が残るなら検討しやすく、住宅ローンが残る場合は慎重、退職金の大部分を使い切るならさらに慎重というのが基本です。
たとえば金融資産3000万円があり、退職金1500万円を受け取るなら合計4500万円です。
そこから800万円の車を現金購入しても、単純計算では3700万円残ります。
住宅ローンがなく、退職後の年間収入で生活費と維持費をほぼ賄えるなら、高級車を前向きに考えやすいケースでしょう。
一方、金融資産500万円、退職金1500万円なら合計2000万円です。
800万円の車を買うと1200万円。さらに住宅ローンが500万円残っていれば、単純な資産と負債の差は700万円になります。
このケースでは「800万円を払えるか」より、住宅修繕などの予定外支出を含めても老後資金が持つかを確認したいところです。
さらに、金融資産300万円、退職金1000万円で、退職金1000万円をそのまま車に使えば、手元の金融資産は単純計算300万円です。
年金などの収入があるため、この数字だけで危険とは断定できません。
ただ私は、退職金の大部分を車に変えてしまう判断にはかなり慎重でありたいと考えます。
車は価値のある資産ではありますが、生活費や住宅修繕費を支払うときに、そのまま現金として使えるわけではありません。
「退職金1000万円が入ったから1000万円の車を買える」ではなく、
「1000万円を車に変えたあと、現金はいくら残るのか」
まで見て初めて判断できるんですね。
高級車ローンは定年後まで残しても大丈夫?
高級車ローンを定年後まで残すこと自体が問題なのではなく、退職後の収入に切り替わっても返済と維持費を無理なく負担できるかが重要です。
55歳で7年ローンなら完済は62歳、10年ローンなら65歳です。
現役時代には軽く感じる返済額でも、再雇用で給与が下がったり年金中心の暮らしになったりすると、同じ金額でも家計への重さが変わります。
たとえば、
ローン返済8万円+保険・燃料・税金・整備積立4万円=月12万円
という家計なら、見るべきなのは「ローン8万円」ではありません。
車のために毎月合計12万円出ていくという事実です。
そのため私は、高級車ローンを組むなら退職予定年齢の翌年の家計表を作ることをおすすめします。
給与が減った状態でも、
「年金・再雇用収入-生活費-住宅費-車関連費」
が無理なく成り立つなら、ローンという選択肢にも合理性があります。
反対に、現役中の賞与を前提にしないと返せないローンは、定年前には慎重に考えたいところです。
現金を残すためにローンを利用する方法もありますが、金利負担も加わります。
一括かローンかではなく、手元資金を守ることと、将来の固定費を増やすことのどちらが自分の家計に合うかで決めましょうね。
中古高級車なら定年前でも安心?修理費まで考える
中古高級車は購入価格を抑えやすい一方、本体価格が下がっても修理費やタイヤ代まで同じ割合で安くなるとは限りません。
新車時1000万円級だった車が中古で400万円になっていると、「これなら手が届く」と感じますよね。
ここで注意したいのが、高級車として設計された機械や装備です。
大径タイヤ、電動シート、高度な運転支援装置、電子制御サスペンションなど、装備が多い車では、不具合が出たときの修理負担が一般的なコンパクトカーより大きくなる場合があります。
だから中古高級車では、500万円の車を買うなら「予算500万円を全部使う」という考え方ではなく、購入後の整備や修理に対応できる現金を別に残しておきたいところです。
保証内容、整備記録、タイヤの残量、次回車検の時期も確認しましょう。
認定中古車など保証の厚い選択肢は車両価格が高めでも、定年前には安心材料になる場合があります。
安く買えた金額ではなく、安心して持ち続けられる総額を見る。
これは新車以上に、中古高級車で大切な考え方です。
私なら「10年後の自分」から高級車を選ぶ
ここからは私見ですが、私は定年前だからという理由だけで高級車を諦める必要はないと考えています。
50代後半から60代は、夫婦で旅行したり、趣味のドライブを楽しんだりできる大切な時間でもありますよね。
静粛性、シートの快適性、高速道路での安定感、運転支援など、高級車の良さは年齢を重ねるほど価値を感じることもあります。
ただし私は、「今買える車」ではなく「10年後まで気持ちよく付き合える車」を選びたいと思います。
55歳で10年乗れば65歳、60歳なら70歳です。
10年後も今と同じ収入とは限りませんし、暮らし方も変わるでしょう。
大型セダンや大型SUVなら、将来的な取り回しや乗り降りのしやすさまで確認したいところです。
逆に定年後に夫婦で長距離旅行をしたいなら、快適性の高い車へお金を使う意味は十分あります。
ここで私が大切にしたいのは、車の値段ではなく、車によって得られる時間にお金を払うという視点です。
同時に、将来の売却価格を当てにしすぎないことも重要です。
「5年後に500万円で売れるはずだから大丈夫」と予算を組むと、中古車相場が変化したときに計画が崩れます。
高く売れればうれしい。
でも想定より安くても老後資金は困らない。
そのくらいの設計にしておく方が、私は高級車を心から楽しめると思っています。
長年ディーラーの店頭でお客様と話してきて感じるのは、満足度の高い車選びは「一番高い車を買えたとき」とは限らないことです。
住宅費、家族の予定、これからの働き方まで含めて納得して選んだ方ほど、「この車でよかった」と穏やかに話される印象があります。
だから定年前では、
欲しい車から予算を作るのではなく、残したい暮らしから車を選ぶ。
この順番を大切にしたいんですね。
まとめ
定年前に高級車を買って大丈夫かどうかは、年齢や退職金の金額だけでは決まりません。
確認したいのは、購入後に残る金融資産、退職後の年間収支、住宅ローンなどの負債、年間維持費の4つです。
J-FLECの2025年調査では、50歳代・二人以上世帯の金融資産は平均1,908万円ですが、中央値は700万円でした。平均だけでは見えない家計差が大きいことが分かります。
総務省の2025年家計調査では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の消費支出は月平均26万3,979円です。
1000万円は、この平均消費支出の単純計算で約3.2年分に当たります。
だからこそ「退職金1000万円があるから1000万円の車を買える」と考えるのではなく、買ったあとに老後資金がいくら残るかを確認してみましょうね。
高級車には、快適性や静粛性、長距離での疲れにくさなど、50代以降だからこそ価値を感じやすい魅力もあります。
定年前だから諦める必要はありません。
買った日にうれしいだけでなく、5年後、10年後にも安心して乗れる一台か。
私は、それが定年前の高級車選びで最も大切な基準だと考えています。
よくある質問
定年前に1000万円の高級車を買うのは危険ですか?
1000万円という価格だけでは判断できません。
購入後にも十分な金融資産が残り、住宅ローンなどの負債が重すぎず、退職後の収入から生活費と車の維持費を負担できるなら検討できます。
一方、退職金の大部分を使い切る場合は慎重に考えたいところです。
退職金で高級車を一括購入するのはアリですか?
一括購入ならローン金利や毎月の返済がありませんが、それだけで安全とはいえません。
購入後に生活防衛資金、住宅修繕費、将来の医療・介護への備え、高級車の維持費まで残せるか確認しましょう。
見るべき数字は「退職金の額」ではなく、車を買ったあとに残る現金と金融資産です。
定年前は新車と中古高級車のどちらが向いていますか?
保証や故障リスクへの安心感を重視するなら新車や認定中古車、購入価格を抑えたいなら一般の中古車も候補になります。
ただし中古高級車は、車両価格が安くなっていても部品代やタイヤ代、修理費まで安くなるとは限りません。
購入価格だけで比べず、保証内容と購入後の修理予備費まで含めて判断してみてくださいね。
モーターライフ・アドバイザー 杉原健一



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